事例問題

一人暮らしの大学生の下宿に、「荷物が届きました」と訪問があり、出てみると、新聞の勧誘員だった。学生でお金がないので不要であると伝えたが、「社会の知識をつけたり、就職活動のためには新聞は大事である」と言って、帰ってもらえず、長時間の勧誘を受けた結果、仕方なく1年間の新聞購読の契約をした。毎月4000円の支払いで、景品として1万円分の商品券をもらった。よく考えると、大学の図書館で新聞を閲覧できるため契約をやめたいと思った。このような相談を受けた時に、どのように対応したらよいか。なお、契約者は19歳の未成年者である。

解説

現職の相談員では間違うことはないと思いますが、一般の受験生では間違うかもしれません。

まず、最初に検討する解決方法が「民法の未成年者契約の取り消し」と考えたのなら、この解説をしっかり読んでください。

実はこの問題はいろんな法律の要素が含まれているので少し長文になっています。

わかりやすくシンプルにすると

「一人暮らしの大学生の下宿に新聞の勧誘員が訪問してきて、1年間の新聞契約をした。よく考えると、大学の図書館で新聞を閲覧できるため契約をやめたいと思った。このような相談を受けた時に、どのように対応したらよいか。なお、契約者は19歳の未成年者である。」

と間を抜くと、どうでしょうか?

やはり、まだ、「民法の未成年者契約の取り消し」と考えますか?

正解は「訪問販売なので、クーリングオフを検討する」です。8日以内なら無条件で解約できます。無条件なので、もめる要素はないですよね。

論文の指定語句に「成年年齢の引下げ」があったからといって、「未成年者契約の取り消し」を最優先するというのは正しくはないのです。民法は最終手段になります。

特別法と一般法

契約の基本は「民法」です。さらに、消費者と事業者の契約なので「消費者契約法」が適用されます。さらにさらに、消費者と事業者の契約で訪問販売なので「特定商取引法」が適用されます。

ということで、1つの契約に3つの法律が出てきました。

この3つの法律で契約をやめることはできるのでしょうか?

  • 民法…契約は自己責任。一度契約すればやめることはできない。やめる場合は違約金等の損害賠償を求められる。ただし、法律に違反する行為があれば契約を取り消しすことができる可能性があるが、それを証明するのは簡単ではない。
  • 消費者契約法…消費者と事業者の契約に限定されるが、勧誘に際して「不当な勧誘行為」や「不当な契約条項」があれば、契約を取り消すことができる。ただし、それを証明する必要がある。
  • 特定商取引法…消費者契約で訪問販売であれば、クーリングオフが可能である。無条件解約なので何かを証明する等の必要はなく、クーリングオフ期間内などの形式が整っていれば解約可能である。不実告知等の不当な勧誘行為についても取り消しできる(消費者契約法と同じ)。

つまり、民法で解約するよりも特定商取引法で解決するほうが簡単であるということです。ただし、条件が「消費者契約・訪問販売・クーリングオフ期間内」と限定されますが、その条件にさえ合致すれば、適用できます。

条件が厳しくなるけど、特別に解約をしやすくなるということで、「特別法」といわれています。

注意することは、特別法は特定の法律を指して特別法というのではなく、ほかの法律と比較して存在します。同じ契約でも特別扱いできるということであるので、表現としては、「特定商取引法」は「民法」の特別法である、ということです。同じように「消費者契約法」は「民法」の特別法でもあり、「特定商取引法」は「消費者契約法」の特別法である、という、ある意味、上下関係です。「民法」は一番基本であり、広く適用できるので「一般法」と呼んでいます。ちなみに消費者契約法は消費者契約に関する基本の法律であり、消費者契約に関する一般法と言われています。「特別法」はほかの法律と比較されて存在するのに対して、一般法は単独でも使うので、少しまぎらわしいかもしれませんね。

民法<消費者契約法<特定商取引法

という関係です。

ちなみに、平成29年度試験 問題11①は「民法は㋐私法の一般法であり、その特別法として消費者契約法、製造物責任法、㋑食品表示法などがある。消費者契約法は㋒消費者契約に関する一般法である。」という問題で、問われている特別法ですが、消費者契約法は説明したとおり民法の特別法で、製造物責任法は(過失を証明しなければならない)民法の不法行為に対して欠陥を証明すれば過失を問わないという特別な法律であるので、製造物責任法は民法の特別法ということになります。ところが、食品表示法は比較する法律もなく単独の法律になりますので、何かの(ここでは民法)の特別法になることはありません。ちなみに一般法の表現として、「民法は私法の一般法」「消費者契約法は消費者契約に関する一般法」という表現は正しくなります。ということで、この問題は「✖イ」ということになります。

事例解説

「一人暮らしの大学生の下宿に新聞の勧誘員が訪問してきて、1年間の新聞契約をした。よく考えると、大学の図書館で新聞を閲覧できるため契約をやめたいと思った。このような相談を受けた時に、どのように対応したらよいか。なお、契約者は19歳の未成年者である。」

この中で出てくる法律は、基本の「民法」であり、消費者契約なので「消費者契約法」であり、訪問販売なので「特定商取引法」ということになります。

したがって、民法の未成年者契約の取り消しを使うよりも、特別法である「特定商取引法」のクーリングオフを最優先に検討します。クーリングオフが対象外であれば、「特定商取引法」のほかの取り消しを検討し、難しいのであれば消費者契約法を検討します。最後に民法という優先順位になります。

「民法の未成年者契約の取り消し」が適用できるのか?

今回の事例に関しては適用するのが難しい可能性が高いです。

法律には様々な適用除外があります。今回は金額的に難しい可能性があります。第5条の第3項で「法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産を処分するときは未成年者が自由に処分することができる」という例外規定があります。簡単に言うと「お小遣い」の範囲であれば除外されるといことです。それもそうですよね。100円のお菓子を買ってきた子供に対してお店に未成年者契約の取り消しなどをしていたら、正常な経済活動が機能しなくなりますよね。つまり、お小遣いの範囲を超える高額な契約は対象となる、ということです。その金額が具体的に定められているのかといえば定められていません。生活環境や年齢などが個人個人で異なるので決めるのは難しいと思います。最終的には裁判で個別事例を検討することになります。民法とはそういうものです。

ただし、一般常識の範囲とはいえ、目安がないのであれば困りますよね。

お小遣いの範囲の目安とは

実は、ゲームの課金で子供が親に内緒でクレジットカードを使って何十万円もの請求が来たというトラブルがあり社会問題になりました。スマホのゲームの「ドリランド」のガチャで20万円分のガチャをしたのにほしいカードが出ないという問題もありました。

子供がゲームをするのに親のクレジットカードで決済できる設定にしていたり、子供が勝手に親のクレジットカードを使ったりという、親の管理責任という問題もありましたが、そもそも子供が無限に課金できるシステム自体がおかしいという話にもありました。消費生活センターにも多くの相談がありました。

当初は消費生活センターでは対応が難しく、「未成年者契約の取り消し」を主張して交渉できるように、弁護士のいる法律相談に行ってください、と助言していたのですが、件数も多く社会問題になったことから、未成年者契約の取り消しに普通に応じるようになったため消費生活センターでも対応可能になりました。ただし、初回1回限りで、アカウントも削除され、一筆書く必要があったようです。

そういう社会問題が多発したことから、ゲーム会社では年齢ごとに課金できる金額を独自に設定するようになりました。

ゲームの利用規約を見ると一覧になっています。ゲーム会社ごとに金額は異なっていますが、だいたい同じような幅になっています。

【例】パズドラ

魔法石の購入には、未成年のお客様や保護者様が、安心してサービスを利用できるよう、年齢別に魔法石の購入上限額がございます。

あなたの年齢により、1ヶ月に購入できる魔法石の金額が決まっておりますので、必ず正しい年齢を選択のうえ、購入手続きをおこなってください。

年齢 1ヶ月あたりの購入上限額
16歳未満 1ヶ月5,000円まで
16歳~19歳 1ヶ月20,000円まで
20歳以上 制限なし

https://pad.gungho.jp/member/130212_notice.html

中学生は5000円か。高校生は卒業後も含めて2万円とは結構高額ですね。まあ、アルバイトもできますから。
19歳といえば就職して自分の給料ももらえる年齢ですが、「未成年」というカテゴリーに入ってしまうのですね。
携帯電話の契約も含め、矛盾しているかもしれません。そう考えると、18歳で成年は妥当かもしれませんね。ただし、18歳には高校3年生も入ってしまうのです。
そして、20歳以上の成年では「制限なし」ということで、自由は得られますが契約責任が生じます。

事例の新聞の契約は金額的にどうなのか?

新聞は毎月4000円程度ですので、難しいのではと書いたのはこういう理由からです。

ただし、4000円といえども、カツカツの生活をしていて小遣いの範囲を超えてしまうという個人の事情もあるかもしれません。それが認めらえるかどうかは裁判等の判断を待つしかありません。私は面接試験では、未成年者契約の取り消しが使えると断言するのではなく、個人個人の事情によりお小遣いの範囲を超える場合もあるかもしれません、と答えました。

※論文の中では、ここまで細かいことを書くと例外規定をすべて書かなければならなくなるので、『「原則として」未成年者の契約は取り消すことができる』という表現をします。なお、「お小遣い」という言葉は条文にはないし、かみ砕きすぎなので書かないほうがいいです。書くなら説明をして、「いわゆるお小遣い」という書き方になります。文字にする時は気を付けてください。ただし、面接等ではわかりやすい話ことばにするために「お小遣い」という言葉を使うほうがいいと思います。

解説(応用編)

では最初の長文の問題を解説します。

一人暮らしの大学生の下宿に、「荷物が届きました」と訪問があり、出てみると、新聞の勧誘員だった。学生でお金がないので不要であると伝えたが、「社会の知識をつけたり、就職活動のためには新聞は大事である」と言って、帰ってもらえず、長時間の勧誘を受けた結果、仕方なく1年間の新聞購読の契約をした。毎月4000円の支払いで、景品として1万円分の商品券をもらった。よく考えると、大学の図書館で新聞を閲覧できるため契約をやめたいと思った。このような相談を受けた時に、どのように対応したらよいか。なお、契約者は19歳の未成年者である。
  1. 「荷物が届きました」と訪問があり、出てみると、新聞の勧誘員だった ⇒ 特定商取引法の違法な勧誘(第3条 訪問販売における氏名等の明示)…業務停止命令等の行政処分あり(契約は成立)
  2. 「社会の知識をつけたり、就職活動のためには新聞は大事である」と言って ⇒ 不実告知とするには難しいと思う(消費者契約法 第4条第1項第1号 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し、特定商取引法 第9条の3第1項第1号 訪問販売における契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
  3. 長時間の勧誘を受けた結果、仕方なく1年間の新聞購読の契約をした ⇒ 消費者契約法 第4条第3項第1号 不退去 … 取り消し可能
  4. 景品として1万円分の商品券をもらった ⇒ 景品表示法(総付け景品の上限20%=9600円・新聞は規約で購読料(最大6か月)の8%が上限=1920円、実はともに違反)、民法の原状回復(取り消しになった場合はお互いに原状回復義務…703条の不当利得) ※1年契約をしていても中途解約に応じているのが実際。景品を返還することが条件
  5. よく考えると、大学の図書館で新聞を閲覧できるため契約をやめたいと思った ⇒ 8日以内であればクーリングオフ可能(特定商取引法 第9条 訪問販売における契約の申込みの撤回等)
  6. なお、契約者は19歳の未成年者である ⇒ 民法 第5条 未成年者の法律行為(第3項により取り消しできる金額かどうかは微妙、というより難しいかも。一括払いだったら可能かも。)

ということで、こんなにも法律が隠れているので、論文や面接では取捨選択して答える必要があります。なお、私は不当な勧誘行為により行政処分の対象となるというところまで聞かれました。

民法の未成年者に関する条文

民法

第二節 行為能力
(成年)
第四条 年齢二十歳をもって、成年とする。

(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

(未成年者の営業の許可)
第六条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

(婚姻による成年擬制)
第七百五十三条 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。

  • 第4条では「20歳で成年とする」という基本的な原則が定められています。
  • 第5条第1項に、未成年者の法律行為には法定代理人(親権者など)の同意が必要となっており、同意がない場合は第2項により取り消すことができるとなっている。
  • 第5条第1項では法定代理人の同意のいらない行為が定められており、「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」、すなわち贈与を受けたり債務の免除を受けたりする行為の同意は不要となっています。
  • 第5条の第2項にも法定代理人の同意の要らない行為として2種類の財産の処分が定められています。1つは「法定代理人が目的を定めて処分を許した財産」であり、例えば、「これで参考書を買ってきなさい」として渡された財産=お金はそ参考書を買ってくるという範囲内で自由に処分=使うことができます。もう1つの「目的を定めないで処分を許した財産」というのは一般的に「おこづかい」と呼ばれるものです。このおこづかいは金額が定められているわけではなく、個人個人の事情により異なってきます。この「おこづかい」の範囲については2字面接試験での事例問題のポイントです。
  • 第6条と第753条では未成年者でも成年とみなされることが定められており、第6条では事業者としての法律行為となっています。未成年者でも会社を起こしたりしているので想像はつくと思います。そして、753条では結婚すると成年とみなされるという定めがあります。へー、という感じですね。

論文ではできるだけ法律用語を使う。面接ではわかりやすい言葉に変換する。たとえば、「おこづかい」は法律用語ではないので論文に使うなら、「目的を定めないで処分を許した財産」の補足説明として『いわゆる「おこづかい」』という書き方をする。面接では「目的を定めないで処分を許した財産」といってもわからないので「おこづかい」という言葉を使ってもかまわない。

ポイント

民法<消費者契約法<特定商取引法

一般法よりも特別法の適用を優先する

論文を書くにあたっても、これを意識してください。