23年度の論文試験の解説をまとめています。
リンク等は作成時のものですのですので、リンク切れ、更新等の可能性があります。
- 23年度 第1次試験 論文試験
- 23年度 論文試験 問題1 消費者基本法
- 23年度 論文試験 問題2 消費者契約法
23年度 第1次試験 論文試験
論文試験は2つのテーマから1つを選択します。
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この線のラストから最後までの間にまとめることになります。
論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。
平 成13年4月1日に消費者契約法が施行されてから、今年で10年が過ぎたが、消費者契約法に導入されたいわゆる消費者取消権は、民法においては保護されな い事例を救済する制度として、大きな意味を持っている。消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示し つつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。
不実告知、 断定的判断の提供、 不利益事実の不告知、 不退去・退去妨害、 重要事項
※23年度の論文試験は「いまさら」的な問題でした。新しい知識は不要で従来の法律、しかも、「消費者基本法」と「消費者契約法」という消費者法の中ではど真ん中の王道に関する問題でしたので、比較的答えやすかったと思います。
※ 例年、1問は法律を正確に答える問題が出題され、もう1問は法律を正確に知らなくても「消費者行政」を理解する中で自分自身の考え方を論述するという問題 が出題されます。今回は前者の法律を正確に知っていなければならない問題は2問目の「消費者契約法」で、消費者行政のあり方などを書けばよい後者の問題は 1問目の「消費者基本法」といえるでしょう。
※指定語句からも消費者基本法は書きやすく、現職相談員であれば、何とでも書けると思います。一般の受験者は消費者行政の歴史を十分に理解していれば、こちらを選択してもいいでしょうし、消費者契約法に自信がなければ、こちらを選ぶという選択肢もありだと思います。
※ 新しい法律があまりなかったということから昔の法律が出題されました。消費者契約法の指定語句はまさしく設問にある「取消ができる契約」になります。条文 どおりの内容ですので、それぞれきちんと理解していれば、例もあげやすく、淡々と論述すればいいので、こちらの方が書きやすいという場合もあると思いま す。ただし、指定語句の意味を間違えてしまってた場合は致命傷になるので注意が必要です。
論文試験について簡単に解説したいと思います。
23年度 論文試験 問題1 消費者基本法
論文試験の解答は公表されていません。採点基準も不明です。私が解答例を書いても適正に評価できず模範解答とはならないので、論文としての回答はしませんが、キーワードと全体の流れや何が求められているのかなどを想像しながらの解説にしたいと思います。
論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。
平 成16年6月2日に施行された消費者基本法は、消費者政策の基本理念を「消費者の権利の尊重及びその自立の支援」にあるとしています。この基本理念が定め られた意義とその具体化のために必要な消費者政策のあり方と課題とについて、下記の指定語句をすべて使用して論じなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。
消費者保護基本法、 消費者の権利、 事業者の責務、消費者の役割、 消費者庁
何を論じればいいのかというと、「この基本理念が定められた意義とその具体化のために必要な消費者政策のあり方と課題」となっていますので、これをしっかりおさえることが必要です。意外にこのことは重要で、すばらしい論文を書いても的外れであれば点数になりません。しっかり問題を読んで、何を論じるべきかという柱を考えるようにしてください。
この基本理念・・・消費者基本法における消費者政策の基本理念・・・ここでは「消費者の権利の尊重及びその自立の支援」にあること
①この基本理念が定められた意義
②その具体化のために必要な消費者政策の
②-(1)あり方
②-(2)課題
この前半で「意義」後半で「あり方」「課題」の3点が論点になります。
この3つの論点を「消費者保護基本法、 消費者の権利、 事業者の責務、消費者の役割、 消費者庁」というキーワードを使ってまとめることになります。
この問題は法律を正確に論じる問題(今回の問題2)ではありませんので、多様な論じ方が可能で答えやすいと思います。
ただし、ある程度は法律に基づいた説明をもとにして「消費者行政に対する自分の考え方を論じる」というのが正攻法ではないかと思います。
私が書くとすれば、できるだけ細かい法律を書きたくないので、組み立てとして
消費者保護基本法では消費者は行政から保護される立場だった(指定語句の消費者保護基本法をどこまで肉付けするか)
【第2段落・序論】意義
→消費者の権利を尊重し、その自立を支援するという理念の下に消費者基本法が施行された
→消費者基本法では、消費者の権利、 事業者の責務、消費者の役割が定められた(指定語句の消費者の権利、 事業者の責務、消費者の役割を説明する)
以上の消費者行政の歴史を論じて、消費者の権利、 事業者の責務、消費者の役割をいくつか具体的に説明する。また、消費者と事業者の情報格差などがあり、そのバランスを保つために、消費者契約法や特商法などの特別法があるという前提を加える。
【第3段落・本論】あり方・課題
→これらを実現するための消費者政策について、いくつか具体的にあり方と課題を自分なりに論じる。その中に消費者庁の創設と課題もあげてもいいし、次の段落に持っていってもいいと思います。
※最終的に、このあり方と課題のボリュームをメインにすれば論文らしく仕上がると思います。自分の書きやすい政策を選んだらいいと思います。
私であれば、消費者教育やIT情報格差などのあり方と課題を論じると思います。
消費者教育・・・賢い消費者になるためには小さい頃からの消費者教育が必要。クレジット社会における金銭教育、携帯電話の未成年者への普及と消費者被害、 口頭でも契約は成り立つという契約の重要性、消費者センターの利用、高齢者の投資被害など→課題:学校教育に十分に組み込まれていない、高齢者に教育する のは難しい、消費者センターを浸透させる必要がある、消費者啓発にも限界はある、など
IT情報格差・・・ネットの普及によるデジタルデバイド(情報格差)が広がっており、便利さを享受できないなど社会生活の格差にもつながっていく。買い物 難民という問題も解決する可能性がある、ネットが一部の人から一般的に普及した、ネット通販による消費者被害も増大、ワンクリック詐欺等も発生→課題: ネット社会のスピードについていけていない、法律の先を行く、被害をいいだせないような悪質さがある、電子マネーなど匿名送金など
【第4段落・まとめ】あり方・課題
消費者庁・・・製品事故などの消費者被害の発生では縦割り行政の影響で被害が拡大することもあり、縦割りをなくし横断的な機能を有する組織として消費者庁が創設された。さらに消費者がいつでも相談できるように、消費生活センターの設置の充実などの基金が創設された。
というような切り口にします。なんとでもごまかせる?ウソ八百?可能。
満点を取る必要はなく、合格点を取れればOKという発想があります。
少し気になる点は「消費者政策」を消費者基本法の条文にあるものに忠実に従うか、現実に問題になっていることを取り上げるか、というところです。
消費者基本法には「基本的施策」と「消費者政策」という似た言葉がありますので留意してください。
施策は理念や計画のような大きな方針で、政策とは施策を実行に移す具体的な行動、とでも考えたらいいのではないでしょうか。
消費者基本法の第2章には基本的施策として11条から23条まで列挙されています。
もし、消費者基本法の消費者政策を例示し、そこから派生する消費者政策を論じればすばらしいですが、そこまでの必要はないと思います。いきなり具体的な消費者政策に入っていけばいいと思います。
そして、基本的施策を見ていただけたら分かると思いますが、あらゆる分野に広範囲にわたっていますので、何を取り上げても問題はないと思いますので、得意 分野について論じたらいいでしょう。そして、とりあげた政策について、あり方と課題をきっちり書き上げることが重要だと思います。字数の関係でたくさん取 り上げることができないので欲張らずに絞ってしっかり論じあげてください。
あとは、消費者基本計画や消費者教育推進法などの、「おっ」と思わせるような言葉が入っていると印象がよくなるかもしれません。
以上が私なりの考え方です。最初に言ったとおり、これが正解ではありませんの、一つの参考として考えてください。
さて、もう少しまともな解答例はというか、この問題の基本的な模範解答になりそうなものについてはどこででも確認することができます。
当然、消費者行政を勉強してきている受験生なら一番最初に出てきた「消費者行政の歴史」そのものであることが分かると思いますし、そのものずばりの文章も 見たことがあると思います。覚えがあることだけに、正確に模範解答を書いた上で自分の考えを肉付けしていくと論文が仕上がると思います。
模範解答の参考例
1.ハンドブック消費者2010の6ページ~[消費者基本法]
2.消費生活アドバイザー受験合格対策の「消費者基本法」
この2つで十分だと思います。
ただし、注意すべきことは、キーワードの「消費者庁」はこの消費者基本法よりもあとに創設されたものですので、うまく文章をつなげてください。
[2]消費者基本法
1.消費者保護基本法から消費者基本法へ
従来の消費者政策は、事業者を業法等に基づき規制するという手法を中心に展開されてきました。そこでは、一般的には消費者は行政に「保護される者」として 受動的に捉えられてきました。また、消費者保護基本法においては、国及び地方公共団体は「消費者の保護に関する施策」を実施することとされ、消費者の「保護」を通じて消費者の利益の擁護及び増進を確保することが基本とされていました。
しかし、消費者保護基本法が1968年に制定されて以降、急速な経済成長、広範な分野にわたる規制改革の推進、IT化や国際化の進展等により消費者をとりまく環境は著しい変化を遂げました。
このような変化の中で、消費者政策の基本的な考え方や施策の内容を抜本的に見直し、21世紀にふさわしい消費者政策として再構築することが不可欠であるとの認識の下、国民生活審議会消費者政策部会において、2002年6月より「21世紀型消費者政策の在り方」につき議論が開始されました。
そして、21世紀にふさわしい消費者政策のグランドデザインを提示することを目指し、国民生活審議会消費者政策部会での議論が行われ、2003年5月に国民生活審議会消費者政策部会報告「21世紀型消費者政策の在り方について」として取りまとめられました。
主な改正事項は以下のとおり。
消費者が安全で安心できる消費生活を送れるようにするためには、消費生活における基本的な需要が満たされ、健全な環境の中で消費生活を営むことができる中で、
・安全の確保
・選択の機会の確保
・必要な情報の提供
・教育の機会の確保
・意見の反映
・被害の救済
がまずもって重要であり、これらを消費者の権利として位置づけています。
そして、「消費者の権利の尊重」と「消費者の自立の支援」を消費者政策の基本とすること等が規定されました。
① 事業者については、従来の規定に加えて、
・消費者の安全及び消費者との取引における公正の確保
・消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること
・消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること(適合性原則)等
を責務とするとともに、環境の保全への配慮、自主行動基準の策定等による消費者の信頼の確保に努めることが規定されました。
③ また、今回の改正により事業者団体及び消費者団体に関する規定が新設されました。事業者団体は、事業者と消費者との間に生じた苦情処理の体制整備、事業者 自らがその事業活動に関し遵守すべき基準の作成の支援その他の消費者の信頼を確保するための自主的な活動に努める一方、消費者団体は、情報の収集・提供、 意見の表明、消費者に対する啓発・教育、消費者被害の防止・救済等、消費生活の安定・向上を図るための健全かつ自主的な活動に努める旨が規定されました。
・安全確保の強化
(危険な商品の回収、危険・危害情報の収集・提供の促進)
・消費者契約の適正化の新設(契約締結時の情報提供や勧誘の適正化等)
・消費者教育の充実
(学校、地域、家庭、職域など様々な場を通じた消費者教育の実施)
・苦情処理及び紛争解決の促進の充実
(都道府県・市町村がともに苦情処理のあっせんを実施等)
等の改正が行われました。
(4)消費者政策の推進体制の強化
・消費者政策を計画的・一体的に推進するために、消費者基本計画を策定
・従来の「消費者保護会議」が「消費者政策会議」へと改組
・国民生活センターは、情報提供等の中核的機関として積極的役割を果たす
こと等が規定されました。
また、施行後5年を目途として、消費者政策のあり方について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられることになっています。
1.消費者庁・消費者委員会創設の経緯
これまで、消費者行政は、事業者の保護育成を主な目的とする各省庁が、付随的なテーマとして、所管する分野ごとにいわゆる縦割りの形で規制を行われてきま した。すなわち、消費者の保護は、事業者の育成・保護を通じた国民経済の発展を図る中で、事後的かつ個別的に行われてきたという側面がありました。
確かに、このような産業保護・育成中心の行政は、戦後の貧困からの脱却に大きな役割を果たしており、急速な経済発展は日本モデルとして世界から注目を集め ました。また、当時の経済政策下では主として所得の拡大を通じて、生活水準を高めることが目指されており、国民の期待も標準的な生活に置かれていました。 しかしながら、グローバル化、複雑化した社会においては、消費者問題は複雑化の傾向にあり、複数の省庁にまたがる事案も数多く発生するなど、これまでの行 政では適切に対処することが困難な状況でした。加えて、昨今、食の安全・安心という消費生活の最も基本的な事項に対する消費者の信頼を揺るがす事件や、高 齢者の生活の基盤である資産を狙った悪徳商法による消費者被害などが相次いで発生しております。
こうした社会状況の変化などを踏まえ、これまでの行政をパラダイム(価値規範)転換し、国民一人ひとりの立場に立ったものとするため、各省庁の所管分野に横断的にまたがる事案に対し、いわば消費者行政の司令塔として機能し、各行政機関の権限の円滑な調整を行うとともに、必要な事案に対しては、自ら迅速に対応する新たな組織の設立に向けた検討が開始されました。2.消費者庁について
消費者庁の任務は、設置法第3条において、消費者基本法第2条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、 消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて、消費者の利益の擁護及び増進、商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的 な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行うこととされており、まさに消費者行政全体の司令塔としての役割を果 たしていくことが期待されています。
具体的には、
1)消費者の声に耳を傾け、自らが所掌する消費者関連法令を執行すること
2)消費者安全法に基づき、各府省庁、国民生活センターや地方の消費生活センターなどが把握した消費者事故などに関する情報を一元的に集約し、調査・分析を行うこと
3)消費者事故などに関する情報を迅速に発信して消費者の注意を喚起すること
4)各府省庁に対し措置要求を行うとともにいわゆる「すき間事案」については事業者に対する勧告や自ら措置を講じること
などの役割を果たします。
消費者庁の現在の重要課題は、2010年3月に閣議決定された消費者基本計画に盛り込まれている地方消費者行政の充実・強化、独立した調査機関の在り方の検討、食品表示の一元化、被害者救済制度の検討などを挙げることができます。
消費者基本法では、消費者政策の基本理念として「消費者の権利の尊重」及び「消費者の自立の支援」を掲げるとともに、その基本理念を具体的に実現する手段として、政府は、長期的に講ずべき消費者政策の大綱となる「消費者基本計画」を定めることとされています。これを受け、政府を挙げて消費者政策の計画的・一体的な推進を図るため、「消費者基本計画」が、2010年3月30日に閣議決定されました(同計画は2代目のもので、初代計画は2005年4月8日に策定されました。)。
1.「消費者基本計画」の全体構成
今次の「消費者基本計画」は、平成22年度(2010年4月)から平成26年度(2015年3月)までの5か年を対象としており、総論として、「消費者基本計画」策定の趣旨、消費者政策の基本的方向性、「消費者基本計画」の検証・評価・監視について記載するとともに、各論として、各府省庁等が取り組むべき171の具体的施策を掲げています。
2.消費者政策の基本的方向
「消費者基本計画」が目指す消費者政策の基本的な枠組みと主な課題は、以下のとおりです。
(1)消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援
① 消費者の安全・安心の確保
② 消費者の自主的かつ合理的な選択の機会の確保
③ 消費者に対する啓発活動の推進と消費生活に関する教育の充実
④ 消費者の意見の消費者政策への反映と透明性の確保
⑤ 消費者の被害等の救済と消費者の苦情処理・紛争解決の促進
(2)地方公共団体、消費者団体等との連携・協働と消費者政策の実効性の確保・向上
① 地方公共団体への支援・連携
② 消費者団体等との連携
③ 事業者や事業者団体による自主的な取組の促進
④ 行政組織体制の充実・強化
(3)経済社会の発展への対応
① 環境に配慮した消費行動と事業活動の推進
② 高度情報通信社会の進展への的確な対応
③ 国際化の進展への対応
ハンドブック消費者からのピックアップだけでも概要をつかむことができます。
結局は消費者政策のあり方と課題をいかにまとめあげるかが焦点になると思います。
その消費者政策も何を選んでもOKということが分かると思います。
具体的な消費者政策は消費者基本計画を参照してください
消費者庁HP
ホーム > 消費者政策課
消費者の利益の擁護及び増進に関する基本的な政策
消費者基本計画等
http://www.caa.go.jp/adjustments/index.html
最後に関係する法律の条文を抜き出してみます。
条文どおりに書こうとすると間違ってしまう恐怖があります。間違った説明は不利になりますので、「~など」を使うなど私は結構ごまかしています。
もちろん、条文を忠実に再現できたらいいのですが、自信のない人はこだわる必要はないと思います。
指定語句の関連
・消費者保護基本法・・・消費者は行政から「保護されるもの」という立場
(消費者基本法・・・消費者は「権利を尊重され、行政から自立し、行政は自立を支援するもの」という立場)
・消費者の権利・・・消費者基本法第2条第1項(2つの前提の中での6つの権利)
・事業者の責務・・・消費者基本法第5条(5つの責務と努力義務)
・消費者の役割・・・消費者基本法第7条(努力義務)
・消費者庁・・・消費者庁及び消費者委員会設置法第3条
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S43/S43HO078.html
(目的)
第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務等を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策の推進を図り、もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。(基本理念)
第二条 消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策(以下「消費者政策」という。)の推進は、国 民の消費生活における基本的な需要が満たされ、その健全な生活環境が確保される中で、消費者の安全が確保され、商品及び役務について消費者の自主的かつ合 理的な選択の機会が確保され、消費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され、並びに消費者に被害が生じた場合に は適切かつ迅速に救済されることが消費者の権利であることを尊重するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援することを基本として行われなければならない。
2 消費者の自立の支援に当たつては、消費者の安全の確保等に関して事業者による適正な事業活動の確保が図られるとともに、消費者の年齢その他の特性に配慮されなければならない。
3 消費者政策の推進は、高度情報通信社会の進展に的確に対応することに配慮して行われなければならない。
4 消費者政策の推進は、消費生活における国際化の進展にかんがみ、国際的な連携を確保しつつ行われなければならない。
5 消費者政策の推進は、環境の保全に配慮して行われなければならない。
(国の責務)
第三条 国は、経済社会の発展に即応して、前条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのつとり、消費者政策を推進する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、第二条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのつとり、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者政策を推進する責務を有する。
(事業者の責務等)
第五条 事業者は、第二条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にかんがみ、その供給する商品及び役務について、次に掲げる責務を有する。
一 消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること。
二 消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること。
三 消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること。
四 消費者との間に生じた苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備等に努め、当該苦情を適切に処理すること。
五 国又は地方公共団体が実施する消費者政策に協力すること。
2 事業者は、その供給する商品及び役務に関し環境の保全に配慮するとともに、当該商品及び役務について品質等を向上させ、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成すること等により消費者の信頼を確保するよう努めなければならない。
第七条 消費者は、自ら進んで、その消費生活に関して、必要な知識を修得し、及び必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めなければならない。
2 消費者は、消費生活に関し、環境の保全及び知的財産権等の適正な保護に配慮するよう努めなければならない。
(消費者基本計画)
第九条 政府は、消費者政策の計画的な推進を図るため、消費者政策の推進に関する基本的な計画(以下「消費者基本計画」という。)を定めなければならない。
2 消費者基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 長期的に講ずべき消費者政策の大綱
二 前号に掲げるもののほか、消費者政策の計画的な推進を図るために必要な事項
3 内閣総理大臣は、消費者基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があつたときは、遅滞なく、消費者基本計画を公表しなければならない。
5 前二項の規定は、消費者基本計画の変更について準用する。
第二章 基本的施策
(安全の確保)
第十一条 国は、国民の消費生活における安全を確保するため、商品及び役務についての必要な基準の整備及び確保、安全を害するおそれがある商品の事業者による回収 の促進、安全を害するおそれがある商品及び役務に関する情報の収集及び提供等必要な施策を講ずるものとする。
(消費者契約の適正化等)
第十二条 国は、消費者と事業者との間の適正な取引を確保するため、消費者との間の契約の締結に際しての事業者による情報提供及び勧誘の適正化、公正な契約条項の確保等必要な施策を講ずるものとする。
(計量の適正化)
第十三条 国は、消費者が事業者との間の取引に際し計量につき不利益をこうむることがないようにするため、商品及び役務について適正な計量の実施の確保を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(規格の適正化)
第十四条 国は、商品の品質の改善及び国民の消費生活の合理化に寄与するため、商品及び役務について、適正な規格を整備し、その普及を図る等必要な施策を講ずるものとする。
2 前項の規定による規格の整備は、技術の進歩、消費生活の向上等に応じて行なうものとする。
(広告その他の表示の適正化等)
第十五条 国は、消費者が商品の購入若しくは使用又は役務の利用に際しその選択等を誤ることがないようにするため、商品及び役務について、品質等に関する広告その 他の表示に関する制度を整備し、虚偽又は誇大な広告その他の表示を規制する等必要な施策を講ずるものとする。
(公正自由な競争の促進等)
第十六条 国は、商品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会の拡大を図るため、公正かつ自由な競争を促進するために必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、国民の消費生活において重要度の高い商品及び役務の価格等であつてその形成につき決定、認可その他の国の措置が必要とされるものについては、これらの措置を講ずるに当たり、消費者に与える影響を十分に考慮するよう努めるものとする。
(啓発活動及び教育の推進)
第十七条 国は、消費者の自立を支援するため、消費生活に関する知識の普及及び情報の提供等消費者に対する啓発活動を推進するとともに、消費者が生涯にわたつて消 費生活について学習する機会があまねく求められている状況にかんがみ、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて消費生活に関する教育を充実する等 必要な施策を講ずるものとする。
2 地方公共団体は、前項の国の施策に準じて、当該地域の社会的、経済的状況に応じた施策を講ずるよう努めなければならない。
(意見の反映及び透明性の確保)
第十八条 国は、適正な消費者政策の推進に資するため、消費生活に関する消費者等の意見を施策に反映し、当該施策の策定の過程の透明性を確保するための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。
(苦情処理及び紛争解決の促進)
第十九条 地方公共団体は、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた苦情が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に処理されるようにするため、苦情の処理のあ つせん等に努めなければならない。この場合において、都道府県は、市町村(特別区を含む。)との連携を図りつつ、主として高度の専門性又は広域の見地への 配慮を必要とする苦情の処理のあつせん等を行うものとするとともに、多様な苦情に柔軟かつ弾力的に対応するよう努めなければならない。
2 国及び都道府県は、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた苦情が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に処理されるようにするため、人材の確保及 び資質の向上その他の必要な施策(都道府県にあつては、前項に規定するものを除く。)を講ずるよう努めなければならない。
3 国及び都道府県は、商品及び役務に関し事業者と消費者との間に生じた紛争が専門的知見に基づいて適切かつ迅速に解決されるようにするために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(高度情報通信社会の進展への的確な対応)
第二十条 国は、消費者の年齢その他の特性に配慮しつつ、消費者と事業者との間の適正な取引の確保、消費者に対する啓発活動及び教育の推進、苦情処理及び紛争解決の促進等に当たつて高度情報通信社会の進展に的確に対応するために必要な施策を講ずるものとする。
(国際的な連携の確保)
第二十一条 国は、消費生活における国際化の進展に的確に対応するため、国民の消費生活における安全及び消費者と事業者との間の適正な取引の確保、苦情処理及び紛争解決の促進等に当たつて国際的な連携を確保する等必要な施策を講ずるものとする。
(環境の保全への配慮)
第二十二条 国は、商品又は役務の品質等に関する広告その他の表示の適正化等、消費者に対する啓発活動及び教育の推進等に当たつて環境の保全に配慮するために必要な施策を講ずるものとする。
(試験、検査等の施設の整備等)
第二十三条 国は、消費者政策の実効を確保するため、商品の試験、検査等を行う施設を整備し、役務についての調査研究等を行うとともに、必要に応じて試験、検査、調査研究等の結果を公表する等必要な施策を講ずるものとする。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO048.html
第二節 消費者庁の任務及び所掌事務等
(任務)
第三条 消費者庁は、消費者基本法 (昭和四十三年法律第七十八号)第二条 の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて、消費者の利益の擁護及び増進、商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行うことを任務とする。
23年度 論文試験 問題2 消費者契約法
論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。
平 成13年4月1日に消費者契約法が施行されてから、今年で10年が過ぎたが、消費者契約法に導入されたいわゆる消費者取消権は、民法においては保護されな い事例を救済する制度として、大きな意味を持っている。消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示し つつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。
不実告知、 断定的判断の提供、 不利益事実の不告知、 不退去・退去妨害、 重要事項
問題1が消費者行政に対する自分の考え方を盛り込むことがメインになるのに対して、問題2は法律を正確に論じるタイプの問題となります。
題材は新しい法律や改正された法律などが取り上げられることが多いのですが、前年の貸金業法の改正のような大きな改正はなかったので最新の法律というよりも、オーソドックスな超基本の消費者契約法が取り上げられました。
施行10年記念という節目の盲点を突かれましたね。
では、こちらの問題は何を論じればいいのかというのを問題1と同じように考えてみます。
この設問自体の主語述語が変で分かりにくいですが、要するに、、「民法と比べて特別であるということを具体的な事例をあげて説明する」ことが論じるべき点になります。
さらに、「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」という問いも並列的に書かれています。
消費者契約法の取消権が民法に比べて特別扱い(特別規定・・・ある特定の事項にだけ適用するきまり)となっている意味を(下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示しつつ)事例をあげて説明しなさい。
ということが論じるべき点ですね。
つ まり、契約するときにうその説明をされてだまされたので取消ししたいと思っても、民法では詐欺を証明しなければならず消費者には負担であるが、消費者契約 法では取消し要件に合致する不実告知などの誤認を示すことができれば取消しできるという民法に比べて消費者に有利な特別規定(特別法)となっている。
ということを指定語句を使いながら具体的に事例をあげて説明することになります。
①「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」
事例を挙げればいいので簡単そうに思えますが、指定語句を見ると、なんと取消に関連する要件のすべての文言が出ているではありませんか。
そういう意味では取りこぼしができない難問かもしれませんね。
ただし、きちんと勉強していれば難なく書けるという意味でやさしいかもしれないという、勉強度合いによって難度が変わってきます。
②そして、もうひとつポイントなるのは、取消権について民法と比較しているというところです。
ご存知のように特別法である消費者契約法は、民法に比べて消費者に有利な法律となっています。
取消権における民法と消費者契約法の違いや背景について、最終的に論じることが必要になります。
③つまり、①と②をクロスさせながら消費者契約法が民法より特別なんだということを論じることになります。
こちらの問題は法律をきちんと論じることが主眼になりますので、模範解答的なものはどこにでもあるると思います。
具体的には、消費者契約法の逐条解説を引用すると、法律制定時の民法との比較について、それぞれの解説と取消が可能な具体的事例があげられています。
また、消費生活アドバイザー受験対策本の消費者契約法のページも取消に関する民法との違いがコンパクトに解説されています。
消費者の窓
消費者の窓トップ > 関係法令 > 消費者契約法
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/index.html
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou1.pdf
【2ページ】
2 現行法制度と問題点
これまで、適正な消費者契約の確保については、法令(民法、個別法)による対応のほか、各種の非法令的措置(例えば、国民生活センター・消費生活センター における相談受付体制の確立、国民生活審議会の調査審議を踏まえた各業界の約款見直し)がとられており、一定の成果がみられる。
しかし、これら従来の対応については、次のような問題点が存在する。
(1)民法による対応
① 意思表示に関する規定(詐欺、強迫、錯誤など)は、契約が対等な当事者の合意に基づき成立することを前提としているため、要件が厳格である。このため、消 費者が事業者の不適切な行為によって契約を締結した場合に、これら意思表示に関する規定を活用して速やかにこれを解消することは、一般に困難である。
② 一般条項(公序良俗違反、信義則違反)に関しては、その抽象性により消費者トラブル解決についての予見可能性、法的安定性が低い。このため、消費者が一般条項を活用して速やかにこれを解決することは、一般に困難である。
(2) 個別法による対応
① 個別の消費者保護立法の適用範囲は、それぞれ特定の分野に限定されている。このため、個別法による対応は、
ア脱法的な悪質商法、
イ規制緩和の進展に伴い活発となるニュー・ビジネス、については、後手に回らざるを得ない。
② 個別法における中心的な手法である行政規制については、
ア消費者の救済は反射的・間接的なものにとどまり、契約の効力否定など私人間の権利義務に直接的な効果をもたらすものではない、
イ政策運営の基本原則が事前規制から市場参加者が遵守すべきルールの整備へと転換しつつあるなかで、消費者政策といえども事前規制の新設・強化は厳しく抑制さ
れざるを得ない、
などの問題がある。
(3) 各種の非法令的措置
個人の権利は究極的には裁判機構という国家権力を通じて実現されるところ、非法令的措置については、消費者が自ら自己の権利を実現するための強制力ある手段(裁判規範)として活用することはできないことから、結局、消費者トラブルの根本的な解決につながらない。
【7ページ】
《総論》
(1)本法案の意義・必要性について
○ 現行民法や個別業法等と比較すると、本法案の新たな法的意義はどこにあるのか。
(答)
① 本 法案は、消費者・事業者間の情報・交渉力の格差が消費者契約のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提に、消費者契約に係る意思表示の取消 しについて、民法における詐欺、強迫の要件の緩和及び抽象的な要件の具体化・客観化を図るものであり、事業者の不当な勧誘によって締結した契約から消費者 が離脱することを容易にすると共に、消費者の立証負担を軽くするといった意義があると考えている。
また、消費者の利益を不当に害する契約条項については、無効とすべき条項を民法よりも具体的に規定し、不当な条項の効果を否定することをより容易なものとし
ている。
② 一方、個別法は、主として個別分野において当該トラブルの発生・拡大を防止し、本法案は、消費者契約に係る広範な分野のトラブルについて、公正かつ円滑な解決に資するものであり、本法案と個別の業法は、補完的な関係にある。
消費者契約法
意思形成過程の瑕疵に関しては、民法では詐欺・強迫による意思表示の取消が認められている(96条)。しかし消費者契約のトラブルでは、詐欺・強迫の証明が困難であったりして適用しにくい場合が多い。そこで消費者契約法では、詐欺・強迫の要件は満たさないものの事業者の不当な働きかけがあると見られる場合の一部について、消費者の誤認・困惑による意思表示の取消権を認め、不本意な契約から離脱しやすくした。
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf
本法は、消費者と事業者との間の情報の格差が消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提として、消費者契約の締結に係る意思表示の取消しについては、民法の詐欺が成立するための厳格な要件を緩和するとともに、抽象的な要件を具体化・明確化したものである。これによって消費者の立証負担を軽くし、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて締結した契約から離脱することを容易にすることが可能となる。
【民法との比較の図がありますが省略します。必ず参照してください】
解説
○ 民法の詐欺の要件のうち本法の「誤認」類型で要件とされないものは、「二重の故意」「詐欺の違法性」である。
○ 本法の「誤認」類型において、対象となる事項を「重要事項」(第 4条第1項第1号)、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金 額その他の将来における変動が不確実な事項」(同項第2号)、「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しない と消費者が通常考えるべきものに限る。)」(同条第2項)と限定している点は、民法の「欺罔行為」の要件を限定しているものである。
○ 本法の「誤認」類型において「事業者の行為」を3つに限定している点は、民法の「欺罔行為」という要件を、消費者契約の場面に即して具体化・明確化するものである。
「事業者の行為」を3つに限定というのは、不実告知(第4条第1項第1号)、 断定的判断の提供(第4条第1項第2号)、 不利益事実の不告知(第4条第2項)の3つということです。つまり、民法の「欺罔行為」(だますという行為)を3つの要件に限定しているということです。
本法は、消費者と事業者との間の交渉力の格差が消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提として、消費者契約の締結に係る意思表示の取消しについては、民法の強迫が成立するための厳格な要件を緩和するとともに、抽象的な要件を具体化・明確化したものである。これによって消費者の立証負担を軽くし、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて締結した契約から離脱することを容易にすることが可能となる。
【民法との比較の図がありますが省略します。必ず参照してください】
解説
○ 民法の強迫の要件のうち本法の「困惑」類型で要件とされないものは、「二重の故意」「強迫行為」「強迫の違法性」である。
○ 本法の「困惑」類型においては、民法の「強迫行為」(相手方に畏怖を生じさせる行為)がなくても、消費者契約の場面に即した一定の「事業者の行為」(客観的・外形的には「困惑」類型(不退去・監禁)に当てはまるが、必ずしも相手方に畏怖を生じさせない行為)があればよい。
一定の「事業者の行為」というのは、不退去(第4条第3項第1号)、監禁(第4条第3項第2号)の2つの行為である。
(注意)条文にはもともと不退去、監禁、退去妨害などの言葉はなく条文を単語に置き換えただけですが、監禁という言葉が公式に使われているようですが、現 場ではどちらかというと「退去妨害」という言葉が使われることが多いです。どちらにしろ、監禁と退去妨害は第4条第3項第2号を表した言葉で同じ意味で す。
ポイント
①民法では詐欺・強迫による意思表示の取消が認められているが、立証が困難である。
②消費者契約法では事業者の不当な働きかけがあるなどの要件を満たすだけで意思表示を取り消しできるようになった。
③消費者と事業者との間には契約の締結や取り引きに関する情報の質及び量ならびに交渉力の格差がある(第1条)
以上の3点を序論的に簡単に論じて、その後に取り消し可能な要件と具体的な事例と民法との関係の本論に入っていけばいいと思います。
論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。
平 成13年4月1日に消費者契約法が施行されてから、今年で10年が過ぎたが、消費者契約法に導入されたいわゆる消費者取消権は、民法においては保護されな い事例を救済する制度として、大きな意味を持っている。消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示し つつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。
不実告知、 断定的判断の提供、 不利益事実の不告知、 不退去・退去妨害、 重要事項
前回は序論的なことと、本論の民法との関係について説明しましたが、今回は、「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」というところと「民法第96条(詐欺又は強迫)」について解説したいと思います。
それは法律を見れば明らかなのですが、指定語句にすべての要件があげられています。
ということは、単純に取り消し可能な4つの要件である指定語句の説明と事例を書けばOKということですね。
さらに、指定語句の「重要事項」は指定語句の「不実告知」と「不利益事実の不告知」に関連しています。
したがって、これらを論じれば本論事例部分は完成ということになりますので、それを民法との比較につなげればいいわけです。
さて、5つの指定語句ですが、すべて消費者契約法第4条に書かれています。
逆に4条さえ理解しているだけで本論の事例は書けるということですね。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO061.html
第二章 消費者契約
第一節 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利 益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限 る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、こ れを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りで ない。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
簡単にまとめると
第4条
第1項(誤認)
第1号・・・不実告知、第2号・・・ 断定的判断の提供
第2項(誤認)
不利益事実の不告知
第3項(困惑)
第1号・・・不退去、第2号・・・退去妨害
それぞれの取り消しについての解説は、何を参考にしていただいても正解が出てくると思いますが、逐条解説および消費生活アドバイザー受験合格対策本から抜粋させていただきます。
なお、逐条解説には「事例とその考え方」も紹介されていますので読み込むと理解が深まります。
逐条解説では、例えば不実告知であれば、その詳しい解説がありますが、論文の解答としては字数のことを考えると、法律の条文そのものをショートカットしたものでもいいのではないかと思います。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
あまり民法について細かく解説するつもりはありませんが、今回の設問で民法と比較しているのは第96条第1項の「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」です。
消費者契約法では詐欺→誤認、強迫→不退去・退去妨害
という対応になります。
根本的に違うのは取り消しできる要件が違うということです。
消費者契約法の方が緩くなっているのですが、どのような点で緩くなっているかを押さえておく必要がありますが、あまり細かく知らなくても概要さえ分かっていたら大丈夫だと思います。
具体的には逐条解説の民法と比較した表を見ていただければ分かりますが
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf
民法の詐欺が成立する要件として
①二重の故意→だまそうとする意思があり、それによって意思表示をしたこと⇒消費者契約法では要件としない
②欺罔(ぎもう)行為→だます行為があること⇒消費者契約法では一定の行為に限定(不実告知、 断定的判断の提供、不利益事実の不告知)
③詐欺の違法性→欺罔行為に違法性があること⇒消費者契約法では要件としない
④二重の因果関係→だまされたことによって誤認し、誤認することによってだました者の望んだ意思を表示したこと⇒消費者契約法では要件となる
が必要とされています。
①「だますつもりはなかった、事業者も(例えば事故車であることを)知らなかった」となれば詐欺としての立証は難しくなるし、③違法性も立証できないので、取り消そうと思うと困難である。
そこで、3つの要件に限定して、その行為によって誤認して意思表示した場合は取消ができるという特別な規定を設けたのです。
民法の強迫が成立する要件として
①二重の故意→おそれさせる意思があり、それによって意思表示をしたこと⇒消費者契約法では要件としない
②脅迫行為→おそれさせる行為があること⇒消費者契約法では一定の行為に限定(不退去・退去妨害)
③強迫の違法性→強迫行為に違法性があること⇒消費者契約法では要件としない
④二重の因果関係→おそれさせられたことによって、おそれさせた者の望んだ意思を表示したこと⇒消費者契約法では要件となる
が必要とされています。
①「おそれさせるつもりはなかった」となれば強迫としての立証は難しくなるし、③違法性も立証できないので、取り消そうと思うと困難である。
そこで、2つの要件に限定して、その行為によって困惑して意思表示した場合は取消ができるという特別な規定を設けたのです。
この2つの類形の概要を本論の事例説明につなげたらいいのではないかと思います。
参考解説HP
民法条文解.com
http://www.minnpou-sousoku.com/
民法第96条第1項(詐欺又は強迫)
http://www.minnpou-sousoku.com/category/article/5/96_1.html
私であれば本論の組み立ては次のようにします。ただし、コピペしているだけですので、自分なりに言葉や表現は変えます。
たとえば、事業者から「事故車でない」と告げられて中古車を購入したが、実は事故車だったという場合である。この場合、民法の詐欺であれば事業者が事故車 と知っていながら事故車でないとだまして契約させたことが取り消し要件の一つになり、事業者が事故車と知らずに売った場合は詐欺の証明が困難になる。しか し、消費者契約法の場合は、契約するときに重要事項(契 約の目的となるものの内容や取引条件のことで消費者が当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの)について事実と異なって いたという事実があれば、事業者がだまそうという意思があったかなかったにかかわらず取り消しできるということが大きな違いである。同様に、将来における変動が不確実な事項について、「絶対に値上がりする」と告げられて株を購入したが値下がりした」という断定的判断の提供や「日当たり良好」と告げられて購入したマンションのそばに半年後に隣に建物が建ち日当たりが悪くなったが勧誘時点で事業者がその事実を知っていたという不利益事実の不告知についても消費者契約法で取り消し可能である。【困惑について】は省略こ のように、消費者にとっては不適切な勧誘行為によって締結した契約から離脱することが容易になるため民法との関係において特別規定としての意味を持ってい る。なお、民法より適用条件が緩くなっているために、適用できる要件が事業者の一定の行為に限られており、取消権の時効も民法より短くなっている。
このような感じで残りの「不退去・退去妨害」を説明していくのが基本と思います。
民法の要素をどこに持っていくか、要件をどの程度まで説明するか、どの順番にするかは、自分の書きやすい形にすればいいと思います。
ただし、私が書いた事例でもかなりの字数になるので、法律の説明をもっと簡素に、そして事例についてもできるだけシンプルに書かないと、字数オーバーにな る可能性があり気をつけてください。逆に、シンプルである方が細かい突込みを入れられなくて済むだけに楽かもしれません。
その後は、最後のまとめにつなげていきます。
消費者の窓
消費者の窓トップ > 関係法令 > 消費者契約法
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/index.html
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
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【43ページ~】
2 条文の解釈
(1)要件1(事業者の行為)
1つ目の要件として、事業者の一定の行為(不実告知(第1項第1号)、断定的判断の提供(第1項第2号)、不利益事実の不告知(第2項))が存在することが挙げ
られる。
○ 「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」
「勧誘」とは、消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度のすすめ方をいう。したがって、「○○を買いませんか」などと直接に契約の締結をすすめる 場合のほか、その商品を購入した場合の便利さのみを強調するなど客観的にみて消費者の契約締結の意思の形成に影響を与えていると考えられる場合も含まれ る。特定の者に向けた勧誘方法は「勧誘」に含まれるが、不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に 影響を与えているとは考えられない場合(例えば、広告、チラシの配布、商品の陳列、店頭に備え付けあるいは顧客の求めに応じて手交するパンフレット・説明 書、約款の店頭掲示・交付・説明等や、事業者が単に消費者からの商品の機能等に関する質問に回答するに止まる場合等)は「勧誘」に含まれない。
「際し」とは、事業者が消費者と最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過において、という意味である。
(1)-1 不実告知
事業者の行為として、第一に、不実告知(重要事項について事実と異なることを告げること)(第1項第1号)が挙げられる。
○ 「重要事項について事実と異なることを告げること」
「事実と異なること」とは、真実又は真正でないことをいう。真実又は真正でないことにつき必ずしも主観的認識を有していることを要さず、告知の内容が客観的に真実又は真正でなければ足りる。
したがって、主観的な評価であって、客観的な事実により真実又は真正であるか否かを判断することができない内容(例えば、「新鮮」「安い」「( 100円だから)お買い得」という告知」)は、「事実と異なること」の告知の対象にはならない。
真実又は真正であるか否かの判断は、契約締結の時点において、契約締結に至るまでの事業者の告知の内容を全体的に評価して行われる。事業者が告げた内容が 当該契約における事業者の債務の内容となっている場合において、契約締結後に当該債務について不履行があったとしても、そのことによって遡って「事実と異 なること」を告げたとされるわけではない。
「告げる」については、必ずしも口頭によることを必要とせず、書面に記載して消費者に知悉させるなど消費者が実際にそれによって認識し得る態様の方法であればよい。
【以下省略します】
本論の後に自分の考えを2-3行程度書いて、まとめとしたらいいと思います。
私であれば、例えば、
「実際には誤認や困惑したという事実を証明したくても証拠が残っていない場合などがあり、事業者と消費者との間で「言った言わない」の争いになり、消費者 が事業者に押し切られてしまうこともある。このような事業者と消費者との力関係の格差に対して、消費者契約法などの法律を有効に活用し、消費生活センター および消費生活相談員として消費者の利益を守るための役割を果たしていくことが重要であると考える。」
注意点
説明すべき事項が多いので、それぞれの字数のバランスを考えなければ字数オーバーとなる可能性があるので、張り切りすぎて1つ目の説明から多くなりすぎないように注意してください。