論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。

論文試験 2

平成13年4月1日に消費者契約法が施行されてから、今年で10年が過ぎたが、消費者契約法に導入されたいわゆる消費者取消権は、民法においては保護されない事例を救済する制度として、大きな意味を持っている。消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示しつつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。

指定語句

不実告知、 断定的判断の提供、 不利益事実の不告知、 不退去・退去妨害、 重要事項

問題1が消費者行政に対する自分の考え方を盛り込むことがメインになるのに対して、問題2は法律を正確に論じるタイプの問題となります。
題材は新しい法律や改正された法律などが取り上げられることが多いのですが、前年の貸金業法の改正のような大きな改正はなかったので最新の法律というよりも、オーソドックスな超基本の消費者契約法が取り上げられました。
施行10年記念という節目の盲点を突かれましたね。

では、こちらの問題は何を論じればいいのかというのを問題1と同じように考えてみます。

消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示しつつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい

この設問自体の主語述語が変で分かりにくいですが、要するに、、「民法と比べて特別であるということを具体的な事例をあげて説明する」ことが論じるべき点になります。
さらに、「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」という問いも並列的に書かれています。

消費者契約法の取消権が民法に比べて特別扱い(特別規定・・・ある特定の事項にだけ適用するきまり)となっている意味を(下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示しつつ)事例をあげて説明しなさい。
ということが論じるべき点ですね。

つまり、契約するときにうその説明をされてだまされたので取消ししたいと思っても、民法では詐欺を証明しなければならず消費者には負担であるが、消費者契約法では取消し要件に合致する不実告知などの誤認を示すことができれば取消しできるという民法に比べて消費者に有利な特別規定(特別法)となっている。
ということを指定語句を使いながら具体的に事例をあげて説明することになります。

「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」
事例を挙げればいいので簡単そうに思えますが、指定語句を見ると、なんと取消に関連する要件のすべての文言が出ているではありませんか。
そういう意味では取りこぼしができない難問かもしれませんね。
ただし、きちんと勉強していれば難なく書けるという意味でやさしいかもしれないという、勉強度合いによって難度が変わってきます。
②そして、もうひとつポイントなるのは、取消権について民法と比較しているというところです。
ご存知のように特別法である消費者契約法は、民法に比べて消費者に有利な法律となっています。
取消権における民法と消費者契約法の違いや背景について、最終的に論じることが必要になります。
③つまり、①と②をクロスさせながら消費者契約法が民法より特別なんだということを論じることになります。

こちらの問題は法律をきちんと論じることが主眼になりますので、模範解答的なものはどこにでもあるると思います。
具体的には、消費者契約法の逐条解説を引用すると、法律制定時の民法との比較について、それぞれの解説と取消が可能な具体的事例があげられています。
また、消費生活アドバイザー受験対策本の消費者契約法のページも取消に関する民法との違いがコンパクトに解説されています。

消費者の窓
消費者の窓トップ > 関係法令 > 消費者契約法
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/index.html
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou1.pdf

消費者契約法 逐条解説より

【2ページ】
2 現行法制度と問題点
これまで、適正な消費者契約の確保については、法令(民法、個別法)による対応のほか、各種の非法令的措置(例えば、国民生活センター・消費生活センターにおける相談受付体制の確立、国民生活審議会の調査審議を踏まえた各業界の約款見直し)がとられており、一定の成果がみられる。
しかし、これら従来の対応については、次のような問題点が存在する。
(1)民法による対応
① 意思表示に関する規定(詐欺、強迫、錯誤など)は、契約が対等な当事者の合意に基づき成立することを前提としているため、要件が厳格である。このため、消費者が事業者の不適切な行為によって契約を締結した場合に、これら意思表示に関する規定を活用して速やかにこれを解消することは、一般に困難である。
② 一般条項(公序良俗違反、信義則違反)に関しては、その抽象性により消費者トラブル解決についての予見可能性、法的安定性が低い。このため、消費者が一般条項を活用して速やかにこれを解決することは、一般に困難である。
(2) 個別法による対応
① 個別の消費者保護立法の適用範囲は、それぞれ特定の分野に限定されている。このため、個別法による対応は、
ア脱法的な悪質商法、
イ規制緩和の進展に伴い活発となるニュー・ビジネス、については、後手に回らざるを得ない。
② 個別法における中心的な手法である行政規制については、
ア消費者の救済は反射的・間接的なものにとどまり、契約の効力否定など私人間の権利義務に直接的な効果をもたらすものではない、
イ政策運営の基本原則が事前規制から市場参加者が遵守すべきルールの整備へと転換しつつあるなかで、消費者政策といえども事前規制の新設・強化は厳しく抑制さ
れざるを得ない、
などの問題がある。
(3) 各種の非法令的措置
個人の権利は究極的には裁判機構という国家権力を通じて実現されるところ、非法令的措置については、消費者が自ら自己の権利を実現するための強制力ある手段(裁判規範)として活用することはできないことから、結局、消費者トラブルの根本的な解決につながらない。

【7ページ】
《総論》
(1)本法案の意義・必要性について
○ 現行民法や個別業法等と比較すると、本法案の新たな法的意義はどこにあるのか。
(答)
本法案は、消費者・事業者間の情報・交渉力の格差が消費者契約のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提に、消費者契約に係る意思表示の取消しについて、民法における詐欺、強迫の要件の緩和及び抽象的な要件の具体化・客観化を図るものであり、事業者の不当な勧誘によって締結した契約から消費者が離脱することを容易にすると共に、消費者の立証負担を軽くするといった意義があると考えている。
また、消費者の利益を不当に害する契約条項については、無効とすべき条項を民法よりも具体的に規定し、不当な条項の効果を否定することをより容易なものとし
ている。
② 一方、個別法は、主として個別分野において当該トラブルの発生・拡大を防止し、本法案は、消費者契約に係る広範な分野のトラブルについて、公正かつ円滑な解決に資するものであり、本法案と個別の業法は、補完的な関係にある。

消費生活アドバイザー受験対策本より

消費者契約法
意思形成過程の瑕疵に関しては、民法では詐欺・強迫による意思表示の取消が認められている(96条)。しかし消費者契約のトラブルでは、詐欺・強迫の証明が困難であったりして適用しにくい場合が多い。そこで消費者契約法では、詐欺・強迫の要件は満たさないものの事業者の不当な働きかけがあると見られる場合の一部について、消費者の誤認・困惑による意思表示の取消権を認め、不本意な契約から離脱しやすくした。

消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf

【57ページ】民法の詐欺と本法の「誤認」類型(第4条第1項・第2項)との比較について

本法は、消費者と事業者との間の情報の格差が消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提として、消費者契約の締結に係る意思表示の取消しについては、民法の詐欺が成立するための厳格な要件を緩和するとともに、抽象的な要件を具体化・明確化したものである。これによって消費者の立証負担を軽くし、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて締結した契約から離脱することを容易にすることが可能となる。

【民法との比較の図がありますが省略します。必ず参照してください】

解説
○ 民法の詐欺の要件のうち本法の「誤認」類型で要件とされないものは、「二重の故意」「詐欺の違法性」である。
○ 本法の「誤認」類型において、対象となる事項を「重要事項」(第4条第1項第1号)、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」(同項第2号)、「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)」(同条第2項)と限定している点は、民法の「欺罔行為」の要件を限定しているものである。
○ 本法の「誤認」類型において「事業者の行為」を3つに限定している点は、民法の「欺罔行為」という要件を、消費者契約の場面に即して具体化・明確化するものである。

「事業者の行為」を3つに限定というのは、不実告知(第4条第1項第1号)、 断定的判断の提供(第4条第1項第2号)、 不利益事実の不告知(第4条第2項)の3つということです。つまり、民法の「欺罔行為」(だますという行為)を3つの要件に限定しているということです。

【65ページ】民法の強迫と本法の「困惑」類型(第4条第3項)との比較について

本法は、消費者と事業者との間の交渉力の格差が消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)のトラブルの背景になっていることが少なくないことを前提として、消費者契約の締結に係る意思表示の取消しについては、民法の強迫が成立するための厳格な要件を緩和するとともに、抽象的な要件を具体化・明確化したものである。これによって消費者の立証負担を軽くし、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて締結した契約から離脱することを容易にすることが可能となる。

【民法との比較の図がありますが省略します。必ず参照してください】

解説
○ 民法の強迫の要件のうち本法の「困惑」類型で要件とされないものは、「二重の故意」「強迫行為」「強迫の違法性」である。
○ 本法の「困惑」類型においては、民法の「強迫行為」(相手方に畏怖を生じさせる行為)がなくても、消費者契約の場面に即した一定の「事業者の行為」(客観的・外形的には「困惑」類型(不退去・監禁)に当てはまるが、必ずしも相手方に畏怖を生じさせない行為)があればよい

一定の「事業者の行為」というのは、不退去(第4条第3項第1号)、監禁(第4条第3項第2号)の2つの行為である。
(注意)条文にはもともと不退去、監禁、退去妨害などの言葉はなく条文を単語に置き換えただけですが、監禁という言葉が公式に使われているようですが、現場ではどちらかというと「退去妨害」という言葉が使われることが多いです。どちらにしろ、監禁と退去妨害は第4条第3項第2号を表した言葉で同じ意味です。

ポイント
①民法では詐欺・強迫による意思表示の取消が認められているが、立証が困難である。
②消費者契約法では事業者の不当な働きかけがあるなどの要件を満たすだけで意思表示を取り消しできるようになった。
③消費者と事業者との間には契約の締結や取り引きに関する情報の質及び量ならびに交渉力の格差がある(第1条)
以上の3点を序論的に簡単に論じて、その後に取り消し可能な要件と具体的な事例と民法との関係の本論に入っていけばいいと思います。