論文試験
次のテーマのうち1つを選び、1000字以上、1200字以内で論文にまとめ、解答用紙に記入しなさい。文字数制限が守られていない場合には、採点の対象外となります。

論文試験 2

平成13年4月1日に消費者契約法が施行されてから、今年で10年が過ぎたが、消費者契約法に導入されたいわゆる消費者取消権は、民法においては保護されない事例を救済する制度として、大きな意味を持っている。消費者取消権が認められるのはどのような事例か、下記の指定語句をすべて使用しながら具体例を示しつつ、民法との関係において特別規定としての意味を説明しなさい。
なお、文章中の指定語句の箇所には、わかるように必ず下線を引きなさい。

指定語句

不実告知、 断定的判断の提供、 不利益事実の不告知、 不退去・退去妨害、 重要事項

前回は序論的なことと、本論の民法との関係について説明しましたが、今回は、「消費者取消権が認められるのはどのような事例か」というところと「民法第96条(詐欺又は強迫)」について解説したいと思います。
それは法律を見れば明らかなのですが、指定語句にすべての要件があげられています。
ということは、単純に取り消し可能な4つの要件である指定語句の説明と事例を書けばOKということですね。
さらに、指定語句の「重要事項」は指定語句の「不実告知」と「不利益事実の不告知」に関連しています。
したがって、これらを論じれば本論事例部分は完成ということになりますので、それを民法との比較につなげればいいわけです。

さて、5つの指定語句ですが、すべて消費者契約法第4条に書かれています。
逆に4条さえ理解しているだけで本論の事例は書けるということですね。

消費者契約法(平成十二年五月十二日法律第六十一号)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO061.html
第二章 消費者契約
第一節 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
3  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二  当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
4  第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5  第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

簡単にまとめると
第4条
第1項(誤認)
第1号・・・不実告知、第2号・・・ 断定的判断の提供
第2項(誤認
不利益事実の不告知
第3項(困惑)
第1号・・・不退去、第2号・・・退去妨害

それぞれの取り消しについての解説は、何を参考にしていただいても正解が出てくると思いますが、逐条解説および消費生活アドバイザー受験合格対策本から抜粋させていただきます。
なお、逐条解説には「事例とその考え方」も紹介されていますので読み込むと理解が深まります。

逐条解説では、例えば不実告知であれば、その詳しい解説がありますが、論文の解答としては字数のことを考えると、法律の条文そのものをショートカットしたものでもいいのではないかと思います。

民法・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

あまり民法について細かく解説するつもりはありませんが、今回の設問で民法と比較しているのは第96条第1項の「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」です。

消費者契約法では詐欺→誤認、強迫→不退去・退去妨害
という対応になります。

根本的に違うのは取り消しできる要件が違うということです。
消費者契約法の方が緩くなっているのですが、どのような点で緩くなっているかを押さえておく必要がありますが、あまり細かく知らなくても概要さえ分かっていたら大丈夫だと思います。
具体的には逐条解説の民法と比較した表を見ていただければ分かりますが
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf

民法の詐欺と消費者契約法の誤認との比較【57ページ】

民法の詐欺が成立する要件として
①二重の故意→だまそうとする意思があり、それによって意思表示をしたこと⇒消費者契約法では要件としない
②欺罔(ぎもう)行為→だます行為があること⇒消費者契約法では一定の行為に限定(不実告知、 断定的判断の提供、不利益事実の不告知)
③詐欺の違法性→欺罔行為に違法性があること⇒消費者契約法では要件としない
④二重の因果関係→だまされたことによって誤認し、誤認することによってだました者の望んだ意思を表示したこと⇒消費者契約法では要件となる
が必要とされています。

①「だますつもりはなかった、事業者も(例えば事故車であることを)知らなかった」となれば詐欺としての立証は難しくなるし、③違法性も立証できないので、取り消そうと思うと困難である。
そこで、3つの要件に限定して、その行為によって誤認して意思表示した場合は取消ができるという特別な規定を設けたのです。

民法の強迫と消費者契約法の困惑との比較【65ページ】

民法の強迫が成立する要件として
①二重の故意→おそれさせる意思があり、それによって意思表示をしたこと⇒消費者契約法では要件としない
②脅迫行為→おそれさせる行為があること⇒消費者契約法では一定の行為に限定(不退去・退去妨害)
③強迫の違法性→強迫行為に違法性があること⇒消費者契約法では要件としない
④二重の因果関係→おそれさせられたことによって、おそれさせた者の望んだ意思を表示したこと⇒消費者契約法では要件となる
が必要とされています。

①「おそれさせるつもりはなかった」となれば強迫としての立証は難しくなるし、③違法性も立証できないので、取り消そうと思うと困難である。
そこで、2つの要件に限定して、その行為によって困惑して意思表示した場合は取消ができるという特別な規定を設けたのです。

この2つの類形の概要を本論の事例説明につなげたらいいのではないかと思います。
参考解説HP
民法条文解.com
http://www.minnpou-sousoku.com/
民法第96条第1項(詐欺又は強迫)
http://www.minnpou-sousoku.com/category/article/5/96_1.html

私であれば本論の組み立ては次のようにします。ただし、コピペしているだけですので、自分なりに言葉や表現は変えます。

消費者契約法において取消が認められるのは、消費者契約法第4条にあるように、誤認や困惑による取消である。誤認には不実告知断定的判断の提供不利益事実の不告知の類型があり、困惑には 不退去・退去妨害の類型がある。

不実告知は、重要事項について事実と異なることを告げることで、当該告げられた内容が事実であるとの誤認して契約したことを要件として取り消しができる。
たとえば、事業者から「事故車でない」と告げられて中古車を購入したが、実は事故車だったという場合である。この場合、民法の詐欺であれば事業者が事故車と知っていながら事故車でないとだまして契約させたことが取り消し要件の一つになり、事業者が事故車と知らずに売った場合は詐欺の証明が困難になる。しかし、消費者契約法の場合は、契約するときに重要事項(契約の目的となるものの内容や取引条件のことで消費者が当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの)について事実と異なっていたという事実があれば、事業者がだまそうという意思があったかなかったにかかわらず取り消しできるということが大きな違いである。

同様に、将来における変動が不確実な事項について、「絶対に値上がりする」と告げられて株を購入したが値下がりした」という断定的判断の提供や「日当たり良好」と告げられて購入したマンションのそばに半年後に隣に建物が建ち日当たりが悪くなったが勧誘時点で事業者がその事実を知っていたという不利益事実の不告知についても消費者契約法で取り消し可能である。

【困惑について】は省略

このように、消費者にとっては不適切な勧誘行為によって締結した契約から離脱することが容易になるため民法との関係において特別規定としての意味を持っている。なお、民法より適用条件が緩くなっているために、適用できる要件が事業者の一定の行為に限られており、取消権の時効も民法より短くなっている。

このような感じで残りの「不退去・退去妨害」を説明していくのが基本と思います。
民法の要素をどこに持っていくか、要件をどの程度まで説明するか、どの順番にするかは、自分の書きやすい形にすればいいと思います。
ただし、私が書いた事例でもかなりの字数になるので、法律の説明をもっと簡素に、そして事例についてもできるだけシンプルに書かないと、字数オーバーになる可能性があり気をつけてください。逆に、シンプルである方が細かい突込みを入れられなくて済むだけに楽かもしれません。
その後は、最後のまとめにつなげていきます。

消費者の窓
消費者の窓トップ > 関係法令 > 消費者契約法
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/index.html
消費者契約法 逐条解説(公開されているのは平成20年改正前のもので最新版ではありません)
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf

消費者契約法 逐条解説より

【43ページ~】
2 条文の解釈
(1)要件1(事業者の行為)
1つ目の要件として、事業者の一定の行為(不実告知(第1項第1号)、断定的判断の提供(第1項第2号)、不利益事実の不告知(第2項))が存在することが挙げ
られる。
○ 「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」
「勧誘」とは、消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度のすすめ方をいう。したがって、「○○を買いませんか」などと直接に契約の締結をすすめる場合のほか、その商品を購入した場合の便利さのみを強調するなど客観的にみて消費者の契約締結の意思の形成に影響を与えていると考えられる場合も含まれる。特定の者に向けた勧誘方法は「勧誘」に含まれるが、不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合(例えば、広告、チラシの配布、商品の陳列、店頭に備え付けあるいは顧客の求めに応じて手交するパンフレット・説明書、約款の店頭掲示・交付・説明等や、事業者が単に消費者からの商品の機能等に関する質問に回答するに止まる場合等)は「勧誘」に含まれない。
「際し」とは、事業者が消費者と最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過において、という意味である。
(1)-1 不実告知
事業者の行為として、第一に、不実告知(重要事項について事実と異なることを告げること)(第1項第1号)が挙げられる。
○ 「重要事項について事実と異なることを告げること」
「事実と異なること」とは、真実又は真正でないことをいう。真実又は真正でないことにつき必ずしも主観的認識を有していることを要さず、告知の内容が客観的に真実又は真正でなければ足りる。
したがって、主観的な評価であって、客観的な事実により真実又は真正であるか否かを判断することができない内容(例えば、「新鮮」「安い」「( 100円だから)お買い得」という告知」)は、「事実と異なること」の告知の対象にはならない。
真実又は真正であるか否かの判断は、契約締結の時点において、契約締結に至るまでの事業者の告知の内容を全体的に評価して行われる。事業者が告げた内容が当該契約における事業者の債務の内容となっている場合において、契約締結後に当該債務について不履行があったとしても、そのことによって遡って「事実と異なること」を告げたとされるわけではない。
「告げる」については、必ずしも口頭によることを必要とせず、書面に記載して消費者に知悉させるなど消費者が実際にそれによって認識し得る態様の方法であればよい。

【以下省略します】

本論の後に自分の考えを2-3行程度書いて、まとめとしたらいいと思います。
私であれば、例えば、
「実際には誤認や困惑したという事実を証明したくても証拠が残っていない場合などがあり、事業者と消費者との間で「言った言わない」の争いになり、消費者が事業者に押し切られてしまうこともある。このような事業者と消費者との力関係の格差に対して、消費者契約法などの法律を有効に活用し、消費生活センターおよび消費生活相談員として消費者の利益を守るための役割を果たしていくことが重要であると考える。」

注意点
説明すべき事項が多いので、それぞれの字数のバランスを考えなければ字数オーバーとなる可能性があるので、張り切りすぎて1つ目の説明から多くなりすぎないように注意してください。