12.次の文章のうち、正しいものには○、誤まっているものには×を、解答用紙の解答欄に記入 (マーク) しなさい。また、誤まっているものには、誤まっている箇所 (1ヵ所) の記号も記入 (マーク) しなさい。

⑦ いわゆる学納金訴訟最高裁判決において、入学辞退をした場合の学納金不返還特約は、消費者契約法第9条によって、㋐授業料部分のみならず、入学金部分についても無効とされた。また、消費者が返金を求めるには、㋑原則として3月31日までに入学の辞退を申し出る必要があるとされた。
⑧ 不退去による取消しの場合の「当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示した」とは、明確に「帰ってくれ」と伝える場合だけでなく、㋐消費者が「時間がありませんから」などと時間の余裕がないことを伝えている場合、㋑「要りません」など契約を結ばない趣旨を消費者が明確に伝えている場合、㋒身振りで帰ってくれという意思を示した場合も含まれる。
⑨ 建物賃貸借契約における敷引特約は、㋐当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無およびその額等に照らし、㋑敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、㋒当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法第10条により無効となるとする最高裁判決がある。

【解説と解答】

「学納金訴訟最高裁判決」は消費者契約法の歴史上の重大事件のひとつです。
実務的にも活用されていますし、「平均的損害」についての考え方も明確になっています。
また、2次試験の面接でも出題されることがあります。
絶対に理解しておいてください。

国民生活センターHP
トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 大学に対する入学辞退者による学納金返還請求
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200706.html

大学に対する入学辞退者による学納金返還請求[2007年6月:公表]

 本件は、大学に合格し入学手続きをしたが結局入学を辞退した者が、入学金および授業料の返還を大学側に求めた事案である。判決は、入学金は入学し得る地位を取得する対価であり返還を要しないが、授業料は返還を要するとした。また、入学を辞退しても授業料を返還しないというのは損害賠償額の予定または違約金の定めの性質を有するが、この点、消費者契約法9条1号が適用され、学生が当該大学に入学することが客観的に高い蓋然(がいぜん)性をもって予測される時点よりも前の時期における在学契約の解除については、原則として大学に生ずべき平均的損害は存在せず、授業料の全額を返還すべきであると認定した。(最高裁判所平成18年11月27日判決)

理由
1 在学契約
在学契約は、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約であり、特段の事情がない限り、学生が入学手続き期間内に学生納付金の納付を含む入学手続きを完了することによって成立する。ただし、学生の身分を取得するのは、入学時期、通常は入学年度の4月1日である
2 入学金
入学金は、学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性格を有し、また、合格者を学生として受け入れるための事務手続き等に要する費用にも充てられるものである。そのため、入学金については、その納付により入学し得る地位を取得したのであり、その後に在学契約が解除されても、大学は返還義務を負う理由はない。
3 在学契約の解除
入学辞退は在学契約の解除の意思表示であり、辞退を書面によるべき旨が要項で定められていても、書面によらなければならないものではない。そして、入学式に無断で欠席した場合には、入学を辞退したものとみなすという記載がある場合には、学生が無断で入学式を欠席することは、黙示の在学契約の解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
4 授業料の不返還特約
消費者契約法は在学契約にも適用される。入学辞退の場合の授業料の不返還特約は損害賠償額の予定または違約金の定めである。消費者契約法9条1号により、不返還特約は平均的損害を超えて無効であると主張する学生側がその主張立証責任を負う。そして、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期における解除については、原則として、当該大学に生ずべき平均的損害は存せず、支払った授業料などは全額が平均的損害を超えることになる。これに対して、解除がこの時点以後のものである場合には、学生が納付した初年度に納付すべき授業料等および諸会費等について、平均的損害を超える部分は存しない。この時期は原則として4月1日であるが、入学式を無断欠席することにより入学しなかったものと取り扱っている場合には、学生が入学式に無断欠席して黙示に解除をすることは予測の範囲内であり、その翌日が客観的に高い蓋然性をもって入学が予測されることになるというべきである。

すなわち、入学金は返還しないが、授業料は3月31日までに入学辞退を申し出れば返還されます。
(入学後に辞退した場合についての判例もあります)
したがって、⑦は㋐が不正解です。


⑤の設問が「退去妨害(監禁)」でしたが、⑧の設問は「不退去」です。
逐条解説のとおりです。
したがって、⑧はすべて正解です。

逐条解説より・・・ひとつ古いバージョンですhttp://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/chikujou/file/keiyakuhou2.pdf

60ページ
(1)-1 不退去
① 「当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず」
「その住居又はその業務を行っている場所」とは、当該消費者がその公私にわたる生活に用いている家屋等の場所をいう。このうち「その(=当該消費者の)住
居」とは、当該消費者が居住して日常生活を送っている家屋をいう。また「その(=当該消費者の)業務を行っている場所」とは、当該消費者が自ら業を行ってい
る場合、労務を提供している場合を問わず、当該消費者が労働している場所をいう。
「退去すべき旨の意思を示した」とは、基本的には、退去すべき旨の意思を直接的に表示した場合(例えば、「帰ってくれ」「お引き取りください」と告知した場
合)をいう。これを間接的に表示した場合については、例えば以下のア~ウのようなケースであれば、直接的に表示した場合と同様の要保護性が消費者に認められ、相手方である事業者にも明確に意思が伝わることから、社会通念上「退去すべき旨の意思を示した」とみなすことが可能であると考えられる。
ア時間的な余裕がない旨を消費者が告知した場合
例:「時間がありませんので」「いま取り込み中です」「これから出かけます」と消費者が告知した場合
イ当該消費者契約を締結しない旨を消費者が明確に告知した場合
例:「要らない」「結構です」「お断りします」と消費者が告知した場合
ウ口頭以外の手段により消費者が意思を表示した場合
例: 消費者が、手振り身振りで「帰ってくれ」「契約を締結しない」という動作をした場合
② 「それらの場所から退去しないこと」
「それらの場所」とは、「その住居又はその業務を行っている場所」を受ける。
「・・・から退去しないこと」については、滞留時間の長短を問わない。


「建物賃貸借契約における敷引特約」ですが、「通常使用分の原状回復費用」などとともに、様々な判例が出ており、⑦の「学納金訴訟最高裁判決」に並ぶ重要な分野ですので、必須事項となります。
敷引き特約の効力に関する裁判例は下級審で様々に示されていましたが、平成23年3月に初めて最高裁で、敷引き特約が消費者契約法第10条により無効となるか否か判断されました。今回の問題は、この判例が出題されたものです。
問題文は判決要旨そのままです。
したがって、⑨はすべて正解です。
最高裁判所
http://www.courts.go.jp/
判例検索

敷金返還等請求事件 平成23年03月24日

裁判要旨
1 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであるときは当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる
2 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,賃貸借契約締結から明渡しまでの経過期間に応じて18万円ないし34万円のいわゆる敷引金を保証金から控除するというもので,上記敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること,賃借人が,上記賃貸借契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では,上記敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。

解答一覧

⑦→×㋐、⑧→○、⑨→○