9.次の文章のうち、正しいものには○、誤まっているものには×を、解答用紙の解答欄に記入 (マーク) しなさい。また、誤まっているものには、誤まっている箇所 (1ヵ所) の記号も記入 (マーク) しなさい。

① 契約は、当事者の意思表示の合致によって成立する。しかし、㋐法律行為の要素に錯誤があった場合はその意思表示は無効であり、表意者のみならず、相手方や第三者もその無効を主張することができると解されている。錯誤による意思表示をしたことにつき、㋑表意者に重大な過失があったときは、無効の主
張は原則としてできないが、㋒インターネットでの注文などの場合については、特別法によって特例がおかれている
② 民法は、行為能力の制度を設けつつ、㋐制限行為能力者の保護を図っている。例えば、18歳の未成年者が車を購入する契約をした場合において、未成年者がその契約につき㋑法定代理人の同意を得ていなかったときは、未成年者本人や法定代理人はその契約を取り消すことができる。成年被後見人が車を購入す
る契約をした場合、㋒後見人の同意を得ていたか否かにかかわらず、成年被後見人本人または後見人はその契約を取り消すことができる。
③ 私法上の規定の中には、㋐強行規定と任意規定がある。契約の当事者が、㋑強行規定に反する内容の特約を設けた場合、その特約は無効とされる。例えば、㋒民法第96条の詐欺または強迫による意思表示の取消しに関する規定を排除する旨の特約は無効である

【解説と解答】

民法の錯誤無効に関する問題です。錯誤無効は現場でも頻繁に使いますし、消費者の行為や事業者の表示などが錯誤に該当するかどうかについての判断も現場でして行くことになるので民法の中でも最重要分野です。
基本原則となる民法の条文を確認します。

民法・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない

意思表示というのは表示した者に帰属するものであり、錯誤があったとしても、それを主張するかどうかは表示者の自由であり、主張せず、受け入れることには何ら問題はありません。したがって、相手方や第3者が存在する錯誤を主張しても表意者が主張しないのなら無効になることはありません。日常生活でもよくあることですので、判断に迷いますが、①は㋐が不正解と考えたらいいです。
インターネットでの注文に関する特別法といえば、ご存知「電子消費者契約法」ですね。

電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO095.html

(電子消費者契約に関する民法 の特例)
第三条  民法第九十五条 ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。


制限行為能力者とは、ものごとを判断する能力が不足している人のことで、法律によって保護されています。
民法第20条に「制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)」という表現があります。
制限行為能力者には、この4類型があり、それぞれの類型によって、保護される内容(レベル)が異なっていますので、その違いをしっかり覚えておくことが重要です。

未成年者に法律行為は、第5条3で規定されている「お小遣いの範囲(法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる)」であれば取消できませんが、車はお小遣いの範囲を超えているので法定代理人の同意がなければ取り消しできます。
また、成年被後見人は日常生活に関する行為は取り消しできませんが、車の購入は日常生活とは言えませんので、条文どおり取消できます。もちろん、同意があったとしても取消することができます。ただし、成年被後見人の法定代理人が行った法律行為は取消することができません。
問題の、「後見人の同意を得ていたか否かにかかわらず」で、「同意を得ていた」ら取消できないように感じるかもしれませんが、取り消しできるのです。
したがって、②はすべて正解となります。

なお、被保佐人については制限行為が第13条に列挙されています。
被補助人についてはあらかじめ制限する行為を選択しておくことになります。
注意しておかなければならないことは、制限行為能力者が詐欺的な手段を使ったときは取消できないということです。
これらの違いはポイントとなるのでしっかり勉強しておいてください。

(未成年者の法律行為)
第五条  未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2  前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3  第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
(成年被後見人の法律行為)
第九条  成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
(制限行為能力者の詐術)
第二十一条  制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。


強行規定は相談現場でも重要です。強行規定と任意規定はしっかり覚えておきましょう。
22年度の解説を引用します。

強行規定と任意規定(消費生活アドバイザー受験合格対策より)
強行規定・・・当事者の意思にかかわらず適用されるのが強行規定で、社会秩序に関するものに多い。消費者契約法や、特定商取引法の行政規制・クーリングオフ規定等は強行規定である。強行規定に反する特約は無効
任意規定・・・当事者の特約が優先されるのが任意規定で、債券法に多くみられる。

本来、契約とはお互いの合意に基づくものです。クーリングオフは契約は成立しているのに無条件で解約できるという契約の原則とは異なるルールであり、強行規定といいます。したがって、クーリングオフは3日間とする、クーリングオフは無効である、などの契約の特約を設けたとしても無効になります。強行規定とは非常に力のあるものです。
任意規定をもう少し詳しく解説すると、当事者に特約がなければ、普通に民法の規定に従うというものです。一般的な民法の規定ではない特約を設けたかったら、あらかじめ特約を設けておきます。そうすとと、この特約が優先されます。ただし、優先されるだけであって、常に有効とされるわけではありません。

今回の問題でに出てくる96条の「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」という規定を特約で排除することは当然許されないことは常識的に分かると思います。
したがって、③はすべて正解です。

(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
解答一覧

①→×㋐、②→○、③→○