10.次の文章のうち、正しいものには○、誤まっているものには×を、解答用紙の解答欄に記入 (マーク) しなさい。また、誤まっているものには、誤まっている箇所 (1ヵ所) の記号も記入 (マーク) しなさい。

①約款とは、㋐特定・不特定を問わず多数の消費者に対して用いられる典型的な契約条件を言い、㋑文房具屋で販売中の「賃貸借契約書」もその一種に含まれる。また、㋒全国有料老人協会が作成した「有料老人ホーム標準入居契約書」も各有料老人ホームがそのまま利用すれば約款となる
②判例によれば、保険契約においては㋐「約款による」との顧客の意思が推定されるが、㋑約款条項と異なる個別合意があるときには個別合意が優先される。しかし、㋒契約書面に記載されていない約款も、契約内容となることがある
③約款解釈においては、㋐約款文言は客観的・合理的に解釈され、㋑合理的に解釈しても全く意味不明な条項には「作成者不利の原則」が妥当する。㋒条項は、個々の顧客ではなく、平均的顧客の理解を基準として解釈され、顧客の平等待遇のため、統一的解釈が要請されている。

【解説と解答】
約款の問題を特に当たっては、知らないとしても常識的な見地で考えれば正解を導き出すことが可能ですし、文脈のニュアンスや矛盾などに気づけば知識がなくてもいけそうです。約款も難しいので私の解説が正解かどうかは自信がないのを付け加えておきます。

①は「賃貸借契約書」「有料老人ホーム標準入居契約書」があって、それぞれの効力を考えるのですが、ヒントとして、「そのまま利用すれば約款となる」という表現があります。すると、書いてあることを相手方が採用すれば契約内容(約款)になるんだなと推測されます。となると、「賃貸借契約書」には限定条件がないので、文章の流れから矛盾が生じ、㋑が不正解ではないかと推測されます。

②でも、「約款による」との顧客の意思、「推定」という言葉があるので、問題はなさそうです。「約款条項と異なる個別合意があるときには」、「個別合意が優先される」という普通に考えれば違和感はありませんね。最後に、「しかし」、とくるので、問題のパターンから、この「しかし」以下が正解かどうか問われていると分析されます。「契約書面に記載されていない約款」はもちろん約款すべてを契約書に書けるわけではありませんので場合によっては「契約内容」と「なることがある」という表現は問題ないと思います。するとすべて正解ではないかと推測されます。

③は普通に考えると簡単そうですが答が少しわかりません。約款の解釈が「客観的・合理的」というもは妥当なところでしょうし、「平均的顧客の理解を基準」というのも問題ないでしょう。すると㋑の「作成者不利の原則」なんですが、解釈が意味不明だったら、顧客に有利に判断すると考えて、すべて正解といいたいところですが、そうではないようです。

約款について勉強する資料は、ハンドブック消費者2010(2010年10月発行 消費者庁)に数ページの解説がされています。
「おすすすめ参考書まとめ」のページなどを参考にしてください。
販売もされていますが、消費者庁のHPにも全部アップされています。
直接リンクは、http://www.caa.go.jp/planning/handbook2010.html
この中の、32ページから解説されていますので、一部抜粋します。

3.約款
(1)普通取引約款
消費者取引において、契約条件をあらかじめ定型的に定めた約款が広く用いられていますが、約款は事業者が作成するのが普通であることから、消費者が不利な内容の契約を強いられるおそれもあります。そこで、法律による規制、行政による指導等を通じた約款適正化のための取組がなされています。
約款は、主として事業者が取引の相手方との契約内容をあらかじめ定型化して定めたもので、大量の取引を簡便・迅速に行うことを目的とするものです。大量反復性を特色とする今日の消費者取引を迅速に処理するため、消費者取引においても広く用いられるようになってきています。ところが、このような約款は、情報・交渉力の面で優位に立つ事業者が一方的に作成するのが普通であることから、事業者が自己の責任を軽減・免除したりするなど、自己に有利な内容を定めるおそれもないとはいえません。消費者には、契約内容について事実上交渉する余地はなく、契約を結ぶか否かについての選択が与えられているにすぎません。これは、取引において、消費者が実質的に契約の自由や選択の自由を制限されていることにほかなりません。そこで消費者取引に用いられる約款の適正化を図るため、次のような取組がなされています。
① 立法による約款適正化
我が国では、主として各業種ごとの個別法令(鉄道営業法、電気事業法、保険業法等)により約款が規制されています。
② 行政等による約款適正化
我が国においては、業種所管行政庁により約款に関する指導等が行われています。
なお、適格消費者団体は、不当条項を含む約款を用いた消費者契約の締結について差止請求をすることができ、約款の適正化に一定の役割を果たしています。
(2)宅配便、トランクルームサービス及び引越運送の標準約款
(3)クリーニング業、理容業、美容業、一般飲食店営業及びめん類飲食店営
業の標準営業約款(Sマーク)
(注) 標準約款制度とは、約款の内容の適正さの確保、約款の認可等に伴う行政手続の簡素化を図るため、行政庁が約款に記載すべき標準的内容を定めて公示し、この約款を使用する事業者については、約款の認可、届出を必要としない制度です。

そのほかのポイントとして、順次問題に出てきますが、②では、約款に書かれていることは契約書に書かれていなくても基本的には契約として縛られることになりますが、約款を構成する契約条項のうち、個別の交渉を経て採用された条項は約款の条項よりも優先されることです。
ということで、予測した回答どおり、①は㋑が不正解で、②はすべて正解となります。

ところが③はすべて正解のような気がするのですが、そうではなく、③は㋑が不正解となっています。ちょっとわかりません。
「作成者不利の原則」は、約款に複数の解釈が可能な場合は消費者に有利な解釈をすべきであり、約款は事業者が一方的に作成したものであるから、表現の不明確さは事業者の責任とし、約款の解釈上の疑義は約款を作成した事業者の不利益にするのが公平であると考えられています。もしかすると、「全く意味不明」という言葉が原則を当てはめるものではないというのかもしれませんが、気になるのは、その点だけであり、申し訳ないですが、ちょっと分かりません。
参考までに、国民生活センターの公表資料の中に「約款」について書かれた文章があるので紹介しておきます。

がんの摘出手術に必要な血糖コントロールのための入院に対して、がん保険の入院保険金が支払われないトラブル(平成22年2月3日)
(国民生活センター消費者苦情処理専門委員会小委員会助言)
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20100203_1.pdf
(2)保険約款の解釈について
1)保険約款の解釈について
契約条項は、明確かつ平易なものでなければならない。そうでなければ、消費者が契約内容をきちんと認識して契約関係に入ることができないからである。ところが、実際には契約条項が明確かつ平易なものになっていないことも少なくない。このことは、契約当事者の交渉を経ることなく一方的に作成される「約款」においてとりわけ問題となる。このような場合に約款をどう解釈するかがポイントである。
約款解釈の考え方については、約款は、通常の合意と異なり、個別具体的な両当事者の意思の合致を探求することよりも、当該約款の利用が予定される取引圏の平均的・合理的顧客の理解を基準とする条項の客観的・合理的な意味内容の確定が重要となる(客観的解釈・合理的解釈)。
また、設定における一方的性格から、約款設定者の責任を制限・免除する条項(免責条項)や顧客に義務を負担させる条項については限定的に解すべきこと(制限的解釈)、多義的な条項については顧客に有利な解釈を採用すべきこと(不明確準則・作成者不利の原則)などを解釈準則とする理解が確立している。
解答一覧

①→×㋑、②→○、③→×㋑